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フランシス・アリス展「GIBRALTAR FOCUS ジブラルタル海峡編」記者会見レポート

By the editors of TECHNÉ, posted at 11:05 AM on July 26, 2013

2013年6月29日(土)から、東京都現代美術館(清澄白河)にて、ベルギー生まれのメキシコ在住アーティスト、フランシス・アリスさんの個展が開催されています。

今回の展覧会は、一期、二期と、二つの構成となっています。29日から開催された第二期「GIBRALTAR FOCUS ジブラルタル海峡編」の記者会見が開催日前日に行われ、フランシス・アリスさん、担当学芸員の吉崎和彦さんが会見に参加しました。

吉崎和彦さんによる展覧会の紹介

吉崎さんは本展について「今回、フランシス・アリスさんの個展を二回にわたって開催しております。アリスさんはベルギーで生まれて、1986年にメキシコに移り、それ以来ずっとメキシコを拠点に、世界中を旅しながら作品を制作してきました。その土地々々で固有の社会問題を扱いながらも、直接的ではなく、物語性が強く、詩的な表現にする事によって、特定地域の問題さえ誰もが共有出来る問題へ昇華させるという点で、国際的にも高く評価されてきました。第一期のメキシコ編では、アリスさんの活動拠点であるメキシコに着目して、これまでどの様な活動をしてきたか、それを概観するような展覧会を開催致しました。
今回、「GIBRALTAR FOCUS ジブラルタル海峡編」としまして、2008年にアリスさんがスペインとモロッコの国境にあるジブラルタル海峡で一つのアクションを行うのですが、その作品のタイトルが「川に着く前に橋を渡るな」、この一つのプロジェクトにフォーカスをあてて、記録映像、ドローイング、ペインティング、インスタレーション、そういった多用なメディアから紹介するという構成になっております。
ジブラルタル海峡といいますと、ヨーロッパとアフリカを分断する象徴的な場所となっております。スペインとモロッコの間が、一番狭いところで14kmの距離となっております。非常に近い場所で、天気が良い日にはお互いの対岸をのぞむ事が出来ます。ヨーロッパとアフリカが最も近接する場所でありまして、アフリカからヨーロッパへ、より良い生活を求めて密入国を試みる人達がこのルートをしばしば使ってきました。ただ、ジブラルタル海峡は地中海と大西洋が合流するところで、非常に潮の流れが強くて、なかなか渡れず、難破して、一時期はスペインの海岸に死体として打ち上げられてきた、そういった背景があります。そこでアリスさんは、舞台となるスペインのタリファという街と、モロッコのタンジールという街、それぞれの街から子供たち約100人が対岸に向かって一列になって泳いでいく。お互いが水平線に向かって泳いでいき、その水平線の先でその二つの列が結ばれる。そうする事によって、ヨーロッパとアフリカの間に架空の橋をかけるというプロジェクトを行いました。
アリスさんはこれまでも、国境という問題を多く作品の中で扱ってきました。様々な場所で国境、人の移動を規制する、管理する国境について、その国境の存在を問いなおすような作品を作ってきました。今回はヨーロッパとアフリカ、ジブラルタル海峡を舞台にして、彼が長年追求してきた国境という問題について触れております。国境という問題は我々日本人にとっても、最近は周辺諸国との領土問題を抱え、一方で移民という問題についてもこれからますます考えていかなければいけない問題です。ですから、ジブラルタル海峡が遠い場所ではなく、私たちにとっても共有出来る問題であると思います。
今回、本展とあわせて出版されます展覧会カタログに、彼自身が2006年から2008年まで、プロジェクトの制作過程の中で書きためてきた制作日誌を所収しております。ドローイング、ペインティング、映像から構成される今回のプロジェクトは、世界に先駆けて全体像を紹介する初めての機会となっております。是非ご堪能して頂ければと思います。」と、展覧会の概要を説明しました。

アリスさんによる作品解説

フランシス・アリスさんは「吉崎さんの方からかなり細かい展覧会の紹介がありましたので、私は状況がどういうものであったのかという事、それと私の作品が2度にわたって違ったエピソードとして紹介されていますけど、今回その話をしたいと思います。
ご存知の様に、今回は2つの展覧会によって構成されているものになっていますが、私は今までこのような形で作品を発表させて頂く事はありませんでした。そしてこれは非常に興味深いものになりました。まず最初は言語が形作られていくその様を探っていく、そういった事から初期の作品を重点的に紹介していくという機会になりました。そして第二期では、1つのプロジェクトに対して執着するかの様に掘り下げて、多面的に紹介する機会になっています。そして、いかなるプロジェクトにも言える事ですが、皆様に紹介する映像作品に先立って、それよりも遥かに長い取り組み、そして様々な議論、そして試作が積み重ねられていきます。それは遥かに長い期間のものであり、最終的に現れる映像作品そのものは、ある意味では一種の証拠といえるのではないかと思います。すなわち、それまで特定の場所と向き合い、それについて調べ上げ、それについてディスカッションを重ねていき、色々と考えを巡らせていった、そういった足跡そのものを示している、その証というべき映像とも言えると思います。ですから、この展覧会で皆様に紹介しているのは、そういった一時一時、瞬間瞬間、どういったことが見られたのか、そういった事について跡を辿っていく、それを皆様にご覧頂く機会になっています。そしてかれこれ2年間取り組んでいたプロジェクトの中で、どういった可能性があったのか、そういったものの証を今回ご紹介する事になっています。
また、第一期にご紹介させて頂いたメキシコ編との大きな違いは何かと言うと、メキシコ編におきましては、ほとんどの作品で、私が主人公として登場しました。しかし、今回のジブラルタル編におきましては、はるかに多くのコミュニティの人々との関わり合いと一緒に作り上げた作品となっています。そこで出てきた違いといいますと、やはり大勢の人に関わってもらうと、それを実際に動かしていく為の道筋、そういった段取りや計画を立ててていく為の作業が複雑になっていきます。そして、当然のことですけど、プロジェクトに関わっている期間もとても長いものになっていきます。そこで何が大事かというと、最終的に何を作りたいと思ってこのプロジェクトに取り組んだのか、そもそもの理由、目指していたアレゴリーやユートピア的なもの、そういったものを私は忘れてはいけないと肝に銘じて取り組んでいく必要が出てきます。
それが非常に難しくなってくるというのが、こういった大掛かりな、大勢の人に関わって頂く場合のプロジェクトなのです。なかなか上手く言葉では伝えられないのですが、例えば様々なイメージや、ドローイング、そしてオブジェクト、そういった物を作っていきながら、このプロジェクト全体の計画を立てていき、その詳細を詰めていく中で、映画を撮影している時に似ていると自分では言えるのですが、テクニカルな事柄の方に頭がいってしまって、そもそも何故これをやろうとしたのか、何がしたかったのかという、本来自分が描いていた映像そのものを見失いそうになる危険性を常に意識しながらやっていく、そういった事が非常に大変な点かと思います。
そして、こういった中において、私が出しているもの、アレゴリーだとか、私が具体的に表象していったもの、想像力や注視されていったもの、そのまま何にも編集せずに、直接ご覧頂ける様な形で見せています。ですので、このアクション全体にかなり直接的に言及しているものもありますし、想像力だとか可能性の道を探っていくようなものもあります。このジブラルタル海峡編の中において、プロジェクト全体の最終的なパッケージを見せたものもあるし、その途中でどういった道があり得たのか、そういった可能性や、とり得たであろう形、それらを合わせてご覧頂ける展覧会となっています。
ですから、通常の展覧会と何が違うのかと言いますと、この展覧会においては、最終的に生まれてきたアクションや作品というだけではなく、その途中における様々な活動、そういったところにおいてあり得た様々な可能性、取り組みや議論そのものを皆様にも体験して頂ける、ご覧頂ける様な状況を考えてきました。」と、作品や展覧会について語りました。

質疑応答

質疑応答において、「2006年のアメリカとキューバのプロジェクトと、今回のジブラルタルのプロジェクト、コンセプトは同じと考えて良いのでしょうか?」との質問に対してアリスさんは、「基本的なストーリーとしては、ご指摘の通り同じものを踏襲しています。率直に申し上げますと、同時に刊行されたカタログに詳しく記載してありますが、キューバとフロリダの間で行ったプロジェクトにおいて、どうしても歯痒さが残っていました。その不満を解消したいという事もあって、ジブラルタル海峡へ繋がったという事であります。そして、アメリカとキューバの間で行ったプロジェクトにどういった不満が残っていたのかというと、理由は様々あったという事だけはこの場で申し上げたいと思います。様々な考えの中で大きな違いを言いますと、以前は大人との作業、コラボレーションをしていましたけど、ジブラルタル海峡のプロジェクトからは子供と一緒にやっていく事に切り替えています。その理由を言いますと、子供の反応というのは本当に素直で、飾っていない、作っていない、自発的な、本音の反応と思えたからです。それまで大人とやっていたコラボレーションに関しては、なにか作り物めいた、ちょっと違うと感じたものもあったので、そこで遊びとかゲーム、そういった考えを織り込んでいくような取り組み方を、このジブラルタルで子供達と一緒に作業する事を通じて探っていくようになりました。」と答えました。

東京都現代美術館では、「GIBRALTAR FOCUS ジブラルタル海峡編」にくわえて、夏休みにむけた企画展「オバケとパンツとお星さま―こどもが、こどもで、いられる場所」、「手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから」も併せて開催されています。「GIBRALTAR FOCUS ジブラルタル海峡編」の会期は2013年6月29日(土)から9月8日(日)となっております。この機会に是非ご高覧下さい。

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