「めめめのくらげ」特別フッテージ上映会レポート

「めめめのくらげ」特別フッテージ上映会レポート

2013年2月15日、現代美術家の村上隆さんの初監督映画「めめめのくらげ」特別フッテージ上映会が、TOHOシネマズ六本木ヒルズにて開催されました。

会場では約10分間の映像が公開されました。村上さんは上映後「本当は試写会として100分間の作品をお見せしなければならなかったのでしょうけど、CGが900カット強と言いましたが、実際は1000カットを超えていて、その制作に追われていて、お見せ出来るのはここまでになってしまいました。2年間この作品に注力してきたので、僕なりにはすごく自信作ですので、是非ご期待下さい。」とコメントしました。

上映後にはティーチインも行われました。

Qこれまでアート世界で活動されてきた村上さんが、映画を撮られるに至った経緯を教えて下さい。

「自分はアーティストとして20年くらいのキャリアがありまして、それなりに海外では知れた名前ではありますが、日本では発表の場もなく、名前と言えばツイッター等で叩かれる、disられる対象みたいになってます。しかし、自分の作品のエッセンスはこの日本で生まれ育った、特に1960年代、70年代のサブカルチャーを背景に作っております。そういったエッセンスを日本の皆さんとも共有出来る様な媒体として、映画をずっと模索していました。最初はアニメーションで作り切ろうと思いましたが、なかなか映画という文法が理解出来なかったので、情報量が多い実写でやろうと踏ん切りましたけど、これが裏目に出てすごい大変な事になっています。」

Qこれまでの作品はポップなイラストのイメージが多い村上さんですが、今回はアニメではなくどうして実写を交えたものになったのでしょうか?

「そもそもですね、企画は10年ほど前に、群馬県でブラジルの労働者がいっぱい移民してきているという話を聞いて、そこから文化の衝突、文化の融合みたいなものをテーマに作れるんじゃないかと思ってシナリオを書き始めました。自分自身がアメリカに行って、文化の衝突の中から新しい物が出来てくるという体験をしましたので、そういうものが出来るかなと思ったのですが、どうもきっかけが薄かったんですよね。動機付けが。しかし震災を契機に、震災は大変な事でしたが、日本の戦後の文化の歪みみたいなものがクッキリ見える様になって、書くべきテーマ…同じ日本人なのにコミュニケーションがうまく行き届いてないんじゃないか、という亀裂がはっきりと見えたので、今生きている日本人をスクリーンの上で映し出す事がリアルだと思い、実写に踏み切りました。」

Q映像を通して震災を乗り越える、そういった意味も籠められているんですか?

「実写の企画を立ち上げたのが2011年の3月下旬だったので、当時は本当に「もう一回立ち上がろう」みたいなメッセージで作れれば良いなと思いましたが、そうやって作り始めた中で、2年も経つとその時の動機とかも色々と変わってきましたが、やはりアニメーションでは出来ないリアリズムというか、子供達の演技ひとつとってもアニメではあそこまでのリアリティは出せなかったのかなと思って。震災の復興もそうなんですけど、今の日本のリアルを追求しようと思って作りました。」

Q映画の現場というのは、これまでとはまったく違った現場だと思いますが、映画ならではの苦労した点があったら教えてください。

「今つくってる現場は、所謂邦画の現場です。自分が見て楽しんでいる映画は、ハリウッド映画も邦画も隔てなく見ています。特に自分は「宇宙戦艦ヤマト」世代なので、メカニックデザインであったり、クリーチャーのデザインなどには、一般の映画のオタクレベル位には目が肥えていますが、現場的にそこを追求すると、なかなか邦画業界では難しかった。故に、何度も何度もスクラッチビルドを繰り返さないといけなくて、完成も遅れに遅れてしまったというのもあるんですね。本当は2011年の年末に完成していなければいけなかった企画だし、コンピューターグラフィックスも半分ほど出来ていたわけです。それを全部ひっくり返して作り直さなければいけなかったというのは、現場と、僕の考えているイベージがずいぶん隔たっていて、その穴を埋めていくという難しさはありました。」

Qある取材の中で監督が「命を吸い取られる様な感覚になった」と仰っていましたが、逆にいうと、映画の中に自分の命が入っていったと捉えて良いのでしょうか?

「僕は宮崎駿監督が大好きで、何百回も、特に「もののけ姫」のメイキングは何度も見ていました。宮崎さんは一作品を終えると、一年以上自分を休憩させると仰っていたんですけど、毎日編集等で「めめめ」の世界に入っていくと、本当に戻って来れない様な錯覚に襲われて、初体験でしたけど、フィクションの中に自分が引っ張られるという体験をして、本当に一年くらい休憩しないと、こっちの世界に戻ってこれないなというのを実感しました。」

Q今回の主題歌のkzさん。初音ミクの声が印象深いのですが、起用の理由を教えて下さい。

「kzさんはご縁があって、今みたいにビッグネームになる前にDJとかを頼んでいた方なんですけど、初音ミクはご存知の様に、日本のサブカルチャーを代表するアイコンになっています。2年前に「Last Night, Good Night」は既にリリースされていた曲でしたが、これを主題歌に利用したいと思った理由は、日本の方に向けた映画であると同時に、日本以外の国に作品を見てもらいたい。日本の代表的なアイコンを次から次へと合体していきたいという思いがあったので、サブカルチャーのアイコンである初音ミク、kz(livetune)の音楽をどうしても合致させたかったというのがあります。」

最後に「3までは映画で作り切ろうとしていますし、チャンスがあればTVシリーズとか、マルチメディアで向こう10年間はこのタイトルは続けていこうと思っています。」と本作の展望について述べました。会場となったTOHOシネマズ六本木ヒルズ入り口では、登場した“くらげ坊”にカメラを向ける方が多く見受けられました。映画「めめめのくらげ」は2013年4月26日(金)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズ他にて全国順次公開されます。

この記事を詳しく読む